キース・アニアンとジョミー・マーキス・シンは、表裏一体の関係です。
一方は人間の、他方はミュウの指導者として、高い能力と統率力を持ち、人間あるいはミュウの未来の鍵を握る存在で、状況によってはキースとジョミーが入れ替わっていてもおかしくはなかったと思います。
ジョミーの市民番号はAD06223でしたが、キースの認識番号はME076223で下4桁が同じなのは、それを意識しての設定でしょう。
キース・アニアンは、実はミュウだったと私は解釈しています。
SD体制の下、ミュウは次々と生まれ続け、その数を増していました。
グランドマザーは、ミュウを排除し弾圧する権利を与えられながらも、ミュウ遺伝子(原作中では素因子と表現されていますが)を抹消してはならないという、矛盾するプログラムに従っていました。
SD体制開始以降の全ての配偶子の組み合わせと、ミュウの発生とを合わせて解析すれば、グランドマザーにはその原因遺伝子を特定することは容易だったでしょうし、作中でもそういう設定になっています。
人間を凌ぐ特殊能力を持つ新人種を、旧人類という種を保存するために排除していくには、同等以上の能力を持った存在を、人間側の指導者として据える必要があったのではないでしょうか。
だからグランドマザーは、人間の指導者として、敢えてミュウ因子を持つキース・アニアンを作ったのだと考えています。
地球へ…の作者の竹宮恵子さんが、どの時点でそう設定したのかは分かりませんが、キースがミュウだということを示唆する事実はたくさんあります。
まず、キースは他の人間のようにはミュウの精神攻撃を受け難かったこと。マツカもミュウだったので、やはり精神攻撃の影響を受けませんでした。
キースに14歳以前の記憶がないことだけでは、E-1077でたった一人だけジョミーのメッセージに影響を受けなかったことは説明できません。
やはり純粋な旧人類ではなかったからだろうと思います。
成人後の全人類にESPチェックを施行することになった時、グランドマザーに「私は陰性です」と報告したキースは、「もちろん陽性のはずはありません。あなたは特別だから」と言われています。
ジョミーが覚醒前に、度重なるESPチェックをかいくぐってきたことを考えると、キースはミュウの遺伝子を持ち、なおかつ非常に強い能力を持っていたのではと推測されます。
また終盤に来ると、マツカと長い間行動を共にしていたため覚醒したものか、ますます特殊な能力を発揮するようになり、他人の心の中が分かってしまうようになっています。
会議で地球代表の弱気を察知してしまうという描写も、無意識の内に他人の意識を読んでいることを伺わせます。
ジョミーを連れてグランドマザーの元を訪れる場面でのキースの独白で、「包みこむような優しさ まだ幼い少年のしなやかな感情-思慕のような…」とあるのは、ジョミーの意識を読んでいる描写としか思えません。
ジョミーの希望、哀しみ、涙をキースが感じ取ることができたのは、やはりジョミーの心をテレパシーで感じたからでしょう。
キースもまた自分の置かれた立場で、人類のより良い未来のため、必死に道を模索し、精一杯生きています。
地球へ…で描かれる世界では、人間、ミュウともに本当の母親の愛を知らず、そのため母なる地球を求めて止まないというのが、物語の重要な鍵になっています。
グランドマザーの合成した遺伝子により作られたキースもやはり、母なるグランドマザーに逆らうことはできず、SD体制への深い疑問を心に宿しつつも、SD体制護持のために全てを投げ打っています。
母といえば、フィシスが遺伝上の母に相当すると知って、キースはフィシスに思慕にも似た感情を抱いています。
地球へ…を初めて読んだ頃には、キースを体制に翻弄され飲み込まれてしまった気の毒な人物と考えていました。
キースは理性的で、なおかつサムを生涯友人として大切に思い、わざわざサムの事故の謎を解くために単独ナスカの調査に向かい、サムの血で作ったピアスを常に身に付け、多忙な中サムの見舞いを欠かさない義理堅い人物です。
また、厳しくミュウ弾圧を行ったのも、親友のサムをあのような状態にしてしまったミュウを許せなかったからでしょう。
キースがもしミュウとして生きていたら、きっとジョミーの良き理解者、協力者になったでしょうが、人種や体制や思想の違いから、理解し合えるはずの二人が対立し、最後には一方が他方を殺してしまう…
でもそればかりではなく、グランドマザーに逆らえなかったキースは、ひたすら母なるもの、ひいては自分のルーツや存在意義を求める人間の悲哀を現していたのだと、今は思っています。