キース・アニアン

キースの心の穴

ナスカに囚われの身となったキース・アニアンは、コンピューター制御による意識のプロテクトにより、眠っている間にも、地球の本当の情報を決してミュウに与えませんでした。

その鉄壁の心に穴を開けたのが、トォニィです。

キースがSD体制始まって以来の本当の人類、トォニィの存在に衝撃を受けたのは、人間をコンピューターの部品のように扱い、不自然な方法で繁殖し、異質なものを排除して種の存続を図るSD体制に、心の奥で疑問を持ちながらも、そのSD体制の申し子としてこの世に生を受けた以上、その運命には逆らえないという、深い矛盾を抱えていたからでしょう。

トォニィの存在によって自分の中の矛盾を意識し、ついジョミーに自分の心への侵入を許してしまったキースは、ジョミーに「心の半分はシステムに反対している」ことを知られ、動揺します。

「不純物は出るさ…良質なものを作ろうとすれば当然だろう…危険な不純物は処分するのが適切だ!」とメンバーズ・エリートとしての建前を口にしながらも、サムやシロエの面影が脳裏を過ぎり、戸惑うキース…

自分のピアスがサムの血で出来ていることをもジョミーに知られ、「ロマンチストだな」と言われてしまい、キースは逆上します。

ジョミーとキースとが結局ここで理解し合えないことが、子供の私には今ひとつ理解できず、残念でなりませんでした。

ジョミーもキースも、常にいかに生きるべきかを自問しながら自分の属する世界に身を捧げる立派なリーダーであり、お互いが少し譲歩し合えば良い理解者になれるのにと思ったのです。

でも大人になってから、ジョミーとキースとが何故理解し合えなかったのかが、分かるようになりました。

個人としての正義と、集団としての正義とが合致しないことが往々にしてあり、そういう時には集団の正義を行動の規範にしてしまうのが人間なのですよね…

そこに生まれるのが対立であり、誤解であり、憎悪であり…

同じようにシステムに疑問を持ちつつも、ジョミーとキースとが互いの死の直前まで分かり合えなかったことは、本当に悲しいことですが、これが私たちの住む世界の現実なのだと、今では思います。